比較的被害の少ない東久留米市に住んでいた少女、宮坂亜夜美は、東京の惨状を自らの目で確かめるべく、単身、新宿副都心へと向かう。そこで彼女を待っていたのは、夕闇の中に浮かび上がる、虐殺と陵辱の地獄絵図であった…。
同じころ、東久留米市。
亜夜美の父、宮坂博士が院長を務める宮坂病院では、医師や看護婦の白衣に混じって、私服で看護をする少女の姿があった。
少女の名は宮坂亜季… 亜夜美の妹である。
ここ宮坂病院には、連日怪我人が運び込まれ、病院全体がその手当てに追われている。院長の娘である亜季もまた、できうる限りの補佐を続けていた。
怪我をした患者達の様子を見るだけでも、東京の現状がいかに危険か推測はできる。宮坂博士が二人の娘に外出禁止を言い渡したのも当然のことであった。
にもかかわらず、亜夜美は自ら危険な都市部へと出かけていったのである。亜季は、内心で姉の安否を気遣いながらも、努めて患者達には笑顔をむけ、自らの不安をかき消すかのように甲斐甲斐しく手当てを続けていた。
しばらくして患者達への処置が一段落し、亜季はロビーの時計へと目を向けた。既に針は10時をさそうとしている。
(そろそろお姉ちゃんが帰ってくるんじゃ…)
亜季は小走りに病院の南口玄関へと向かった。亜夜美はいつもそこに車を停めるのだ。
玄関から外に出た亜季の前に、夜の帳に包まれた世界が広がる。亜夜美の車はまだ停められていない。
遠くから近づいてくる車の音が聞こえないかと亜季は耳を澄ますが、不気味なまでに夜陰は沈黙をまもっている。
「お姉ちゃん…」
姉の身を案じ、思わずつぶやく亜季。
だが、亜季は知らなかった。皮肉にも、今、身の危険にさらされているのは、他でもない彼女自身であることを…
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